* そして僕は途方に暮れる

高校2年になった時に初めてこっそりバイトを始めた。
黒猫ヤマトの荷物の仕分けの仕事だった。

中学校の同級生にバッタリ会った時にバイト募集を聞き、
なんとなくの返事で夕方6時からのシフトに入ったのが始まりだ。


初めてバイト先へ赴き、社員のオジサンにひと通りの説明を聞いて
仕事を始めた。

ベルトコンベアに流れてくる荷物を行き先に合わせて受け取り、
それぞれのカゴに入れていく単純な仕事だった。


ちょうど今頃、
1月の終わりから荷物の仕分けの現場に立つようになった。
当時の現場は吹きさらしで寒かった。

荷物の仕分けラインの現場ではいつもラジオを流していて、
当時流行っていた大澤誉志幸の「そして僕は途方に暮れる」が
ヘビーローテーションしていた。
 

初めての現場が終わると
現場のアルバイトの長とも言うべき高校生の男が

 
「おまえ、帰り、ちょっと顔をだせや」

 
と突然ボクの正面に立ちふさがり、
アゴを突き出すような格好で言ってきた。

 
その男は当時「ワル」と言われた高校に通うトッポイ兄ちゃんで
角刈りなのに後ろの裾だけ長い特有のヘアーカットに
白のハイネック、ニッカポッカ風ズボンとカンフーシューズといった
当時流行っていた風貌のバリバリのヤンキーだった。

 
バイトが9時に終わると現場近くの田んぼに呼び出された。
田んぼは稲が綺麗に刈り取られ真冬の空は透き通っていて空には綺麗な三日月が輝いていた。

 
アルバイト仲間は皆、ボクとそのヤンキーの周りを遠巻きに囲んで
事の成り行きを見守っていた。

 
するとヤンキーはいきなり構えるとボクの頬を殴り、
僕をねじ伏せてもう一度ボクを殴りつけた。

 
田んぼに倒れたボクはすかさずあいつの前に立ち上がった。

あいつはまた殴り掛かって来た。
僕はまた殴られ、田んぼに倒れた。
手を触れると田んぼの土は乾いていた。
 
口の中が切れていたが不思議と痛くは無かった。
ボクはまたあいつの前に立ち上がった。
その後何度かあいつのパンチをくらったが抵抗はしなかった。
しかし
その度にすかさずあいつの前に立ち上がることを繰り返した。

しばらくするとあいつは
「おい、いくぞ!」
と言うと
周りの取り巻きを引き連れて帰っていった。

 
何が何だかよくわからなかったが、
空を見上げると月明かりが眩しく、
星が綺麗にきらめいていた。

次の日もバイトの日だった。
何となく気が進まなかったが平然と仕分けのバイトに行った。

 
あいつは何事も無かったかのようにベルトコンベアーの前に立ち
テキパキと仕事をしていた。
周りの高校生バイトもたまにこちらをチラリと見るも、
平然を装って仕事をしている。

休みのベルが鳴る。ベルが鳴ると15分休憩になる。
休憩時間はみんな寒い現場から事務所へ入って暖を取る。

ボクも一人、事務所に入って座っていた。

その時
誰かがすっとボクの前に
自動販売機のポッカコーヒー(ショート缶)を置いていった。

 
 

 
見上げるとあいつだった。

 
「お疲れ。」

あいつは言った。

ボクは黙っていたが
あいつは少し微笑んだような顔をして
向こうの席へ歩いていった。

 
事務所のラジオからは「そして僕は途方に暮れる」が掛かっていた。

今でもこの凛とする寒さと
どこまでも透き通る夜空の月と星の輝きを見ると
あの田んぼでの出来事を思い出す。
 
 
 
長い。 

2017.01.25 Wednesday * 21:33 | 生活 | comments(0) | trackbacks(0)
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